認知機能,MCI
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座長:深津 亮(埼玉医科大学)
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血清脂質濃度と認知機能との関係;利根町研究
木之下徹1),山下典生2),水上勝義3),谷向 知3),朝田 隆3)
1) 医療法人社団こだま会こだまクリニック,2) 国立精神・神経センター,
3) 筑波大学臨床医学系精神医学
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TA-1
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【目的】
認知機能と血清脂質濃度との関係についてApoEの遺伝子型ごとに調べた.
【対象】
茨城県利根町に居住する65歳以上の全高齢者2732人である.そのうち死亡,転居したなどの本調査への不参加者を除き1896人が対象になった.そこから高脂血症を診断されている者,本解析に必要なデータの欠損がある者を除いた1083人が最終対象である.調査期間は2001年12月から2002年4月である.本研究は筑波大学倫理委員会の承諾を得て行った.また実施に際しては文書と口頭で十分な説明を行い,書面によりインフォームドコンセントを得た.
【方法】
集団スクリーニングによる認知機能検査(ファイブコグテスト)を施行した.この検査は注意,記憶,視空間認知,語想起,推論の各テストから構成されている.結果をわかりやすくするために,視空間認知得点以外の4つの得点に対し主成分分析を用い合成得点を算出した(認知機能得点).その他の調査内容は,性別,年齢,Body Mass Index(BMI),運動機能評価,教育年数,視覚機能,聴覚機能,うつ簡易評価尺度(GDS),日常生活能力評価(N-ADLとI-ADL),飲酒の有無,喫煙の有無,NSAIDの服用の有無の13項目である.また血液脂質データについては,総コレステロール(TC),中性脂肪(TG),HDLコレステロール(HDL),ApoE,ApoA-1,ApoBを定量し,ApoE遺伝子多型のタイピングを行った.分布が歪んでいるTGについては対数変換を行い,統計解析は一般化線形モデルを用い,注目している効果を上記13項目で調整した.群間比較にはTukey-Kramer法及びDunnett-Hsu法を用いた.
【結果と考察】
ApoEの遺伝子型の頻度は,(ε遺伝子型)22/23/24/33/34/44=(人数)4/84/11/787/183/14人であった.本稿では煩雑になることを避け,ε2,ε4のアリールの影響を考察しやすくするために,遺伝子型の頻度が全サンプル数の1%程度の群を解析から外し,以下の解析に耐えうるε23,ε33,ε34群に注目し結果を整理する.
【ApoE遺伝子ごとの血清脂質濃度の相違】
ε23群では他の遺伝型群に比べて有意(p<0.01)にTCとApoBが低くApoEが高かった.この結果は従来の報告と同様な傾向である.
【ApoE遺伝子ごとの認知機能と血清脂質濃度との関係】
各脂質濃度の順に5分位数で分け,最低濃度階級(第1階級)を基準とした.第2から第5階級の各階層における,基準に対する認知機能得点の(最小二乗)平均について多重比較を行った.ε33群においてのみTC,TG,HDL,ApoE,ApoA-1の血清濃度が高いと有意(p<0.01からp<0.0001)に認知機能も高まることが示された.ただしTCにおいては第4階級(中央値228mg/dl,範囲216から242mg/dl)の認知機能得点が最も高かった.ε23群,34群についてはこのような脂質濃度と認知機能得点との関係は全く見出されなかった.遺伝子型を問わずHDL,ApoA-1が高いと認知機能が高まることが従来の報告にあるが,そのことが遺伝子型によって異なることは知られていなかった.
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軽度認知機能障害に関する地域調査;参加群と不参加群の年齢階層別比較
宮本美佐1),山下典生2),木之下徹2),中島真理子3),日高 真3),朝田 隆3)
1) 筑波大学 人間総合科学研究科,2) 国立精神・神経センター神経研究所,
3) 筑波大学臨床医学系精神医学
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TA-2
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【目的】軽度認知機能障害は痴呆の前駆状態として注目されている.この段階で介入を行うことによって痴呆発症の予防や遅延の可能性があるのではないかと言われている.そこで軽度認知機能障害に関する地域調査を試みた.しかし従来,疫学調査では不参加群の実態が明らかにされていない.また不参加群は参加群よりも身体機能や認知機能の低下が見られるという報告もある.そこで今回,不参加群は認知機能の低下等から痴呆発症のリスクが高いのではないかと仮説をたてて年齢階層別に検証した.
【対象と方法】人口約1万人の茨城県利根町に在住する65歳以上の高齢者2627人を対象とした.調査は2001年12月から7月に行った.調査への同意が得られ,スクリーニングに参加し分析可能であった1537人を参加群とした.またスクリーニングに不参加であったが,かかりつけ医の協力等によって,後に調査への同意が得られ,認知機能検査の実施が可能であった174人を不参加群とした.これらの参加群と不参加群について,ADL (activities of daily living) と認知機能に関して年齢階層別に分析した.認知機能は,東京都老人総合研究所と筑波大学精神医学科との共同で開発された5-cogを用い,注意・記憶・視空間認知・言語・推論の5領域を測定した.基本的ADLの測定はN-ADLを用いた.認知機能検査の得点は,回帰モデルによって性・年齢・教育年数で調整後,Z変換した.これらの得点で平均より1SD以下の得点を示したものを軽度認知機能障害の可能性ありとして,参加群と不参加群で多重ロジスティック回帰分析を用いて比較した.さらに調査への「全くの不参加者」について,年齢や介護保険の受給者,調査への不参加理由を比較検討した.
【結果】基本的ADLは不参加群で有意な低下が見られた.認知機能は,注意・記憶・視空間認知・言語・推論のうち,記憶領域で不参加群に有意な低下がみられた.さらに前期高齢者(65-74歳)と後期高齢者(75歳以上)に分けて比較した結果,65-74歳では不参加群で記憶領域に有意な低下が見られたが,75歳以上では差はみられなかった.これらの結果を検証するために,年齢や介護保険の受給者について,「参加群」「不参加群」「全くの不参加群」で比較した.その結果「全くの不参加群」は,より高齢層が多い傾向が見られ,介護保険の受給者も多く,特に75歳以上の受給者が多い傾向が見られた.これらの高齢でより重度な機能低下を有すると考えられる対象者が,全く調査に参加していないために,見かけ上75歳以上では認知機能に有意な低下を示さなかったと考えられた.
【結論】後期高齢者における不参加群の多くが心身ともに機能低下した状態にあると思われる.それに比べ,前期高齢者は参加者に比べて多少の機能低下を認めるに過ぎない.
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Alzheimer’s Disease Assessment Scale
-MCI日本版(ADAS-Jcog-MCI)得点の検討;利根町研究
児玉千稲1),木之下徹2),山下典生1),宮本美佐3),服部恵子4),中島真理子5),
野口広子1),朝田 隆3)
1) 国立精神・神経センター,2) 医療法人社団こだま会こだまクリニック,
3) 筑波大学臨床医学系精神医学,4) 吉岡リハビリテーションクリニック,
5) 茨城県立医療大学
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TA-3
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【背景】
軽度認知障害は,正常な加齢と初期のAD間における認知障害の移行段階として注目されており,症状の経過観察が重要となっている.Alzheimer’s Disease Assessment Scale 日本版(ADAS-Jcog)はアルツハイマー型痴呆(AD)の経過の評価のために広く使用されている神経心理検査であるが,軽度認知障害を対象としたADAS-Jcogの研究はほとんどない.
【目的】
地域住民における軽度認知障害者と健常高齢者のADAS-Jcog得点の特徴を検討する.
【対象と方法】
茨城県利根町に居住する65歳以上の高齢者で利根町研究に参加し,インフォームドコンセントが得られた1711名を対象に認知機能の5領域(記憶,言語,視空間機能,推論,注意)を測定した.その後,介入研究に参加した373名のうち,94名をランダムに選び,ADAS-Jcogを施行した.今回は軽度認知障害者を対象としているため,従来のADAS-Jcogに単語遅延再生と集中・散漫を評価する下位検査を加えたADAS-Jcog-MCIを使用した.その上で,認知機能の5領域のうちいずれにおいても障害が認められない群を健常群,記憶領域のみで平均から1SD以上の得点低下が見られた群を軽度認知障害群,記憶領域を含めた2つ以上の領域において平均から1SD以上の得点低下が見られた群を痴呆群と操作的に定義し,3群間で従来のADAS-Jcog合計点と単語リストを使用する下位検査の各得点(直後再生,遅延再生,再認得点),単語リストを使用しない下位検査の合計点を1要因分散分析により比較検討した.
【結果と考察】
群分けした結果,健常群は67名,軽度認知障害群は13名,痴呆群は7名であった.各群におけるADAS-Jcog合計点の平均は,健常群では3.99±2.1点,軽度認知障害群では9.98±5.1点,痴呆群では10.64±5.3点であった.健常群,軽度認知障害群の平均は米国で発表された類似の調査とほぼ同様の傾向であるが,痴呆群の平均は米国のデータに比して低くなっており,痴呆の程度はより軽度であると考えられる.分析の結果,ADAS-Jcog合計点,単語直後再生,単語遅延再生,単語再認得点において1%水準で各群間に有意な差が認められ,健常群<軽度認知障害群<痴呆群であった.単語リストを使用しない下位検査の合計点においても1%水準で各群間に有意な差が認められ,健常群<痴呆群<軽度認知障害群であった.今回の結果より,ADAS-Jcog合計点と単語リストを用いた記憶に関する項目において,軽度認知障害群は健常群と痴呆群の中間に位置することが示唆された.一方,単語リストを使用しない項目においては,健常群に比して軽度認知障害群,痴呆群ともに誤答が多いことが示唆された.今後は縦断調査を含めた検討を加えながら,軽度認知障害者におけるADAS-Jcog-MCIの有用性を検討し,各下位検査の結果を用いて最も診断精度が高くなる評価法を明らかにしたい.
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